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Special Crosstalk

“あの日”を思い出して、もう一度考えたい地球のこと

電気がつくこと、携帯が繋がること。この日常は本当に当たり前なのでしょうか?
2011年3月11日、日本が揺れたあの日。明日、電気がつかなくなるかもしれない。水がでなくなるかもしれない…。
そんな不安に誰もが襲われたあの日のこと、すっかり忘れてはいませんか?
ブロードウェイを震撼させた超問題作『チルドレン』の上演にあたり、高畑淳子さん、鶴見辰吾さん、若村麻由美さんに、作品のお話、そして今、地球のために私たちができることを語っていただきました。

目の前にある切実な問題を見ないフリするのは終わり

高畑「私ね、山崎豊子先生の『環境汚染』を読んだ時は洗剤からなにから全部変えたの。海を汚すのは生活排水だって知ってね。でも気づいたら…元に戻ってる」

若村「3・11の時は計画停電でありがたみを知ったし、世の中が節約を強く意識したのに、今はすべてが元に戻ったかのように暮らしているんですよね」

鶴見「僕は家にエネトークを入れてるんですけど、これは電気を使った状態がわかるんですよ。それまで何気なく使ってる電気だけど、可視化するとなんでこんなに使っちゃったんだろうって反省したり、使ってない部屋の電気は積極的に消したりするようになりましたね」

若村「いま、電気が止まったら私たちは生活できないんですよね。代わりになるものは本当にないのでしょうか? あの原発事故で大きな犠牲を払ったことを思うと、このまま電気に頼るにしても頼らないにしても、目の前にある切実で難しい問題を選択しなければいけないのでしょうね。

便利=進歩じゃない。私たちは今こそ進む方向を考え直すべき

高畑「そうね…。電気がなくても生きて行けるなんて絶対言えないものね。でも私は昔の人たちがしてたような生活、好きだったなぁ。汚物は汲み取って肥料にしたり、日が暮れて暗くなったら寝るというような生活。今って電車に乗るとみんなスマホいじってるじゃない? あの光景怖いわよ」

若村「でも、人類は進歩したら後戻りはできないと言われていますよね。まさに今それを証明していて、そうなるともっと進歩するしかなくて。今後どうなっていくのか、不安な気持ちになりますね」

鶴見「その進歩の方向性をね、間違ってないところになるべく向けようじゃないかということを我々は考えなきゃいけないんですよ」 若村「本当は高畑さんがおっしゃったように原始的な暮らしをするのが理想だと思うのですが、便利を味わうと不便に戻すのは難しそうですよね」

高畑「でも私たちが知ってるその便利さは、私たちが死んだあともっと過剰になっていくわけでしょ。だから今のうちにどこを目指すのか、進歩を続けていいのか、人間として忘れちゃいけない根幹は何かを考えなきゃいけないと思うわ」

鶴見「たしかに。便利になること=進歩じゃないと思う」

自分が変われば世界が変わる。自分の生活を見直してみて

若村「私、2002年から富士山のゴミ拾いをしているんです。野口健さんの活動に賛同して年に1回程のペースで仲間に入れてもらっているんです。そうするとなんでこんなものがここに!?というゴミがあちこちに落ちているんですよ」

高畑「そんなにゴミが落ちてるの?」

若村「2時間の活動で3トンくらい拾えるんですよ。今は不法投棄やレジャー登山者のポイ捨てが多いんですけど、ときにものすごく古いものが出てくるんです。陶器のような和式の便器が大量に棄ててあって。これは水洗トイレが主流になった時代に廃棄されたんだなと、社会背景が見えてくるんですね」

鶴見「ゴミ拾いで時代が見える」

若村「そうなんです。それにね、ゴミを拾うことで自分もこんなにゴミを出して生きているんだって実感させられます。鶴見さんの“使った電気を可視化する”ことと同じで、見ることで生活を改めようと意識するんですね」

高畑「自分が変われば世界が変わるってことば、私好きなの」

若村「イイですね、私もそうありたい。少なくとも自分が今日出したゴミを見ることだけでも、自分の意識が変わるのが分かります」

鶴見「この作品もそう、見たくないものは見ない。さっきまであんなに役に立ってたのにゴミにしたのは自分たちだという。作品の中にも『アナタには電気を使う権利はない』ってセリフがあるんですよね。これはとても刺さる。電気をつかっている全員の人に見て欲しいですね」

高畑「ほんとよね。でも私たちも電気がついた舞台で芝居をするわけで、松明たいてやるわけじゃないから… 矛盾だらけよね」

矛盾やパラドクスがあちこちに散りばめられた面白い作品

鶴見「そういう面白い矛盾とか、パラドクスが含まれた作品です。人生の後半に差し掛かった3人の元物理学者に迫られる決断のとき。地球が鳴らす警鐘をどう未来に伝えて行くのかという難しいテーマではあるんですが、3人の関係が複雑だったり、色んなところにコミカルな要素も含まれているんですよね。例えば3人はヨガをしてたり、ヨーグルトを食べたりして健康に気を使ってる。いつか死ぬとわかっていながらも健康に対して執着してるんですよ。そんな矛盾やパズルが散らばっていて、それがピタッとはまったときに最高に面白い作品になると思います」

若村「一度観たら面白く、何度も観ると“このセリフはこんな意味だったのか”という発見が湧いて出てくるような作品です」

鶴見「もちろんただの面白いシーンだと受け止めてもらうのでも構わないんですよ。でもそこで原発をイメージさせるところまで我々が表現できればというのがテーマじゃないですかね」

若村「このお話を初めて読んだときは複雑でした。日本で起きた災害かつ人災でもあったことを、海外の方の目線で描かれた作品は、日本の皆さんにどう受け止められるのだろうと…。震災後にはそれをテーマにした作品がたくさん作られましたが、少しずつ記憶の片隅に追いやられつつある気がします。忘れることで前に進もうというようなことでしょうか。でもこの作品の舞台は日本ではないですし、私たち全人類が国を超えて抱えている、目前の大問題がここにある。今やるべき演劇なのだと感じたんですよね」

高畑「劇場は忘れてた事を思い出させてくれるし、考えなきゃいけないことを立ち戻って考えられる場所。原発に対してのデモやシュプレヒコールなんて大げさなものじゃないけど、立ち止まって考え直すきっかけになれば」

鶴見「あの震災から7年。若村さんがおっしゃったように正直言って、忘れる訳じゃないけど記憶の片隅にいってしまいがちですもんね。それをもう一回、高畑さんがおっしゃったみたいに思い出したり、考えたり、これからどうしようと思考停止させないことのきっかけになる演劇だと思いますね。あと、世界は福島をこういう風に見てたんだという、客観的に知る機会でもあると思いますね」

あの日を風化させずこれからの地球を考えるきっかけに

若村「作りものですが、まさに今私たちが経験したことと照らし合わせられるんです。今を生きる私たちをリアルに写し、60代の男女が描く未来とは何なのか。チルドレンというタイトルに込められた思いを自由に発想していただけたらいいですね。」

高畑「人生は絶対に終わりは来る。残りの時間を何に使って終わるかを考えるときが来るよね。今はまだ“こうします”なんて言えないけれど、あとの世代に何を残すか。まして原発は自分たちが作ったものでしょ? どうするんだろうな… 自分なら子供たちに何を残すんだって考えてもらえるだけでも面白いと思う」

若村「60代って、まだまだ元気で働けるけれど、体は少しずつ警笛を鳴らし始めています。ある程度自分の先も見えてきて、次世代に何を引き継ぐのか、具体的に考えられるいい年頃なのではないかと、私自身楽しみにしているんです。自分がやってきたことがこの作品のような事態に直面した時、何をどう考えて命をどう使うか、登場人物たちを借りて、本気で立ち向かいたいと思います。その苦悩をどう滲み出すのか、演じる側もより真剣に取り組んで行かなければと思います」

鶴見「何度も読んでこそ面白いと思う作品を、初めて観るお客さんにも繰り返し観てもらったような重厚で濃厚な味わいを提供するのが我々の役目であり、これから大変な作業になっていくと思いますね。見終わったあと“なんだかよくわからなかったね”では僕らの負けなんです」

高畑「観劇後に語り合って欲しいですね。だからできれば誰かと観に来て欲しいし、そして何度も足を運んでもらえたら嬉しいですね」

Photo / 海老沢 勇  Text / 根本聡子
Hair & Make / 山田展良(鶴見辰吾) 大矢朋美(eclat daikanyama)(若村麻由美)
Styling / 井嶋一雄(Balance)(鶴見辰吾) 岡 のぞみ(若村麻由美)


Profile
高畑淳子/1954年生まれ。桐朋学園大学短期大学部芸術科演劇専攻卒業後、劇団青年座に入団。菊田一夫演劇賞・演劇大賞を受賞、読売演劇大賞・最優秀女優賞など数々の受賞歴を持ち14年秋の叙勲にて紫綬褒章を受章。近年の出演作に、舞台「土佐堀川」「雪まろげ」、NHK「篤姫」「真田丸」「なつぞら」、「ナオミとカナコ」「昼顔」(CX)など多数。

鶴見辰吾/1964年生まれ。1977年ドラマ「竹の子すくすく」でデビュー。主な出演舞台に「アドルフに告ぐ」(演出: 栗山民也)、「間違いの喜劇」、「十二夜」(ともに演出: 蜷川幸雄)など他多数。 映画、ドラマの世界でも幅広く活躍し、近年の主な出演映画に「シン・ゴジラ」(監督:樋口真嗣)、「舟を編む」(監督: 石井裕也)などがある。

若村麻由美/東京都生まれ。無名塾出身。NHK連続テレビ小説「はっさい先生」のヒロインに選ばれデビュー。ドラマ・映画・舞台で圧倒的存在感を示し、古典から現代劇まで幅広く活躍。昨年の舞台「ザ・空気」「子午線の祀り」で読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。Paravi「SPECサーガ完結篇『SICK'S 恕乃抄』」現在配信中。WOWOW 連続ドラマW「「黒書院の六兵衛」7月22日~放送中。

Vegas『THE CHILDREN チルドレン』
 作/ルーシー・カークウッド  演出/栗山民也 翻訳/小田島恒志
 出演/高畑淳子、鶴見辰吾、若村麻由美
 企画製作/株式会社パルコ
 公演/9月8日(土)・9日(日)彩の国さいたま芸術劇場代ホール
    9月12日(水)〜26日(水)世田谷パブリックシアター
    他、豊橋、大阪、高知、北九州、富山、宮崎公演あり
 問 サンライズプロモーション東京 TEL 0570-00-3337